ぐるぐる回る2012

 「ぐるぐる回る2012」というフェスに行ってきました。


 もともとは新宿の芸能花伝舎で開催されていた「廃校フェス」の続編として、一昨年からさいたまスタジアム2002にて開催されている、有志によるDIYフェスです。ただ「さいたまスタジアム」といっても、スタジアムのフィールドは使われません。コンコースと、スタンドの一部分を使って、ライブ、アートマーケット、ワークショップなどが雑多に入り乱れる、ちょっと不思議な内容のイベントです。
 A〜Oまでの15個のステージを円形に配置し、お客さんはコンコースを文字通り「ぐるぐる回って」ライブを観たり、廊下部に出店されているアートマーケットを覗いたりします。また、ステージは「キュレイター」制をとっており、一つ一つのステージのブッキング/設営/運営はすべて各キュレイターが責任を持つ、というのもひとつの特色です。

 実は、今年の「ぐるぐる回る」は、これまで中心となって運営してこられた主催者、竹内知司さん(インディーレーベルblunstone主宰)が急逝なさったために、川瀬さん、北原(フニャ)さんという廃校フェス時代からのキュレイターが後を受け継ぐという形で運営に回られたのです。そしてぼくも、2009年の廃校フェスでキュレイションのお手伝いをしたという縁があり、今回は出演のほかに、ちょっとだけブッキングの相談に乗らせていただいたりもして、なんだかよくわからない距離感で関わらせていただきました。


 さいたまスタジアムに足を踏み入れたのは初めて。浦和レッズの本拠地でもあるこのスタジアム、コンコースは一周800メートル。広いです。
当日、スタッフは9時搬入。開園は11時。2時間という短い時間で設営から数組のリハーサルまで、各ステージがばたばたと準備に追われている様子を見て「これ、大丈夫かな...?」と思っていたのですが、11時になってまだアートマーケットが店を出し終えてもない中を、予定通りにお客さんが入場してこられたりして、さらに驚愕。「オープンします!」みたいな連絡もなく、しれっとイベントが始まり、そして11時半になると予定通りに各ステージで一組目のライブがスタート。なんてゆるいイベントなんだと、思わず笑ってしまいました。



 出演時間まで間があったので、埼玉の地ビール小江戸ビール」を片手に、何を見るとでもなくぐるぐると会場を巡回。
 各ステージのラインナップには、どれもキュレーターの色が明確に出ていました。加えて、それぞれのステージ思い思いの照明やデコレーション。よくあるショウケース/サーキットイベントとは違って、どのステージも「これがやりたい!」という透徹した思いがありありと見て取れました。
 また、感心したのは絶妙な時間配分。1〜2曲づつ聞きながら回ると、ちょうど40分ほど、つまり1アクトの持ち時間で1周するのです。これはよくできているなあと感心させられました。
(写真はMORTAR RECORD山崎さんがキュレイションするHステージ最後のアクト「それでも世界が続くなら」を観るお客さんたちの背中。ステージの後ろは大ガラス、夕日が差し込んできていて、バンドの持つまっすぐでエモーショナルな演奏をさらに引き立てていました。)

 また、もうひとつ特筆すべきなのは、キュレイター、スタッフ、お客さん、出演者、みんなが楽しそうだったこと。書いてしまうと当たり前のようなことなのですが...それぞれが自分のペースで、いい意味で「好き勝手」に楽しんでいるように見受けられた、ということが、このフェスの本質を表していたように思えます。
 ボロフェスタや東京BOREDOMなどをやっていて「このイベント、すごいんじゃないか...?」と思う瞬間には、"主催者の思惑を離れて、勝手にイベントの空気が加速して行く"という感覚があるのですが、昨日さいたまスタジアムを包んでいた空気には、間違いなくこれがありました。
 それに加えて「ぐるぐる回る」の組織的なゆるさが、会場の特殊なつくり(まっすぐ歩いているつもりでも、なぜか一周している。あまりに周回を重ねすぎるとある意味サイケな気分になってくる)とも相まって、このフェスにしか生み出せない、きわめて独特な時間を生み出した、そんな風に感じたのです。


 もちろん、これは外野からの皮相な見方にすぎません。代表のおふたかたをはじめ、運営スタッフの側の苦労がいかほどのものであったか、安易に想像することはできないですし、1500人ほどの来客のなかで、どんなトラブルがあったのか、どんな不便があったのか。単純に、ぼくが知らないだけ、ともいえるかもしれません。
 けれど、営利を目的をする人間がただの独りもいない(PAさんすら、採算度外視で機材を持ち出して下さったそうです)なか、「創る」と「奏でる」、そして「遊ぶ」という3つの「喜び」が、ゆるやか、かつカオティックに交差したあの時間に生まれていた不思議なエネルギーは、「DIY」というかたち(それは、やり方ではなくて、フェスのあり方を決める「かたち」と呼んでしかるべきだと思います)の可能性をあらためて感じさせるものでした。



 「スタジアムのコンコース」という、一見音楽とは関係なさそうな場所が、アイディアと工夫によって魅力あるフェスのシチュエーションに変わる。これは、プロモーターや興行イベンターにはなかなかできないことでしょう。だって、利益よりも手間のほうが圧倒的に多いのですから!
 でも、その「手間」の山を上りきったところには「何か」がある。その「何か」こそがフェスの創り手を動かし惹きつけるのです。そして、優れたDIYフェスにおいては、その「何か」が主催者たちだけではなく、演奏者、お客さんにも伝わってゆきます。むしろ、DIYフェスのひとつの目標は、この「何か」を、その場に居合わせる人たちの間でどこまで共有できるか?ということだ、とも言えるように思えます。


 スタッフの皆さん、出演者の皆さん、そして遊びにいらっしゃったすべての皆さん、あらためて、昨日はお疲れさまでした。そして主催陣、キュレーターのみなさん、本当にありがとうございました。とても勉強になった一日でした!