ボタモチの木、あるいはラップと私

ラップをやるようになったのは、多分24歳くらいの時だったと思う。実はそれまでヒップホップのよさは理解できなかったのだが、当時頭角を現していたMSC降神の発する日本語を聞いた時、どうもひっかかって、それからヒップホップの聞き方が変わった。オレにMSC降神の音を聞かせてくれたのは、その頃よくつるんでいたBボーイのトモダ
チからだった。オレは彼からいろんなヒップホップを聞かせてもらい、ビートとライムで表現できることに新しさを感じていた。

それからほどなくしてそのトモダチとラップを始めることになり、元々日本語が好きでダジャレが好きだったオレは結構真剣にラップに向き合った。そもそもヒップホップカルチャーを心得ずにパンク的な感覚で始めたオレは、すぐに自分のバンドにもそれを取り入れて、恥も知らずに世間に発表したりしていた。


それから今までオレはラッパーとしての側面を臭わせたりさせつつ、しかし最近はやっぱりラッパーという感じに馴染まない自分の性格を認めて、控えるようにしている。昔はトモダチとフリースタイルのやりあいなんかしてふざけてたけど、やっぱりああいうのは自分の性格に合わない。ラッパーが曲間のMCの時かなんかに、威丈高な姿勢になり、それがハマってればいいけど、本当は善良な日本人なのに無理矢理USギャング的なワルっぽい感じを演じてるだけな印象になっちゃうのは苦々しいと思う。


ところで、先日何と赤い疑惑の音源を神戸のtofubeats君という若いトラックメイカーがリミックスしてくれる、という面白いことがあった。オレはリミックスだなんてのをされたのが生まれて初めてだから、初体験というか、リミックスされて単純に光栄で嬉しい。もちろん、無許可でリミックスされんのはどうなんだ、という風に捉えるお固い人達もいるのかもしれないが、個人的にはそんなことは気にしない。勝手に宣伝してくれているようなもんだからもうけモンだ。


オレはクラブカルチャーにも馴染みがなかったからリミックスっていうのが何なのか、あんまりよく分かっていなかったが、こうやって自分のラップがまったく別のトラックにのっかるとこんなに風に変身しちゃうのかー、とリアルに確認することができてホクホクした。「赤い疑惑のリミックスやりたいよね」なんてことをDJやってるトモダチなんかから何度か聞いたことがあったけど、実際今まで具体的に実在してない。しかし、今回こうやってtofubeats君の所業で棚ぼた的に世にドロップされることになったのは嬉しいことだ。「大学はでたけれど」という曲を、「DJ大学まだ出てない」と称する実際まだ大学生のtofubeats君がリミックスしてくれたっていうのこともグッとくる。

こういうことがあると、あの時よくぞ恥を恐れずラップを始めたもんだ、と当時の無謀な自分を讃えてやりたくなる。自分が初期衝動で残した下らない詩とそのライミングが、後にとあるトラックメイカーのインスピレーションを刺激したのだと思い振り返るとミラクルだとしか言えない。

種はすぐに発芽しない。何にしろ始めてみないと分からない。初めは分からなくても続けていると徐々に見えてくることはいっぱいある。三十路に突入し、時の過ぎゆく早さに翻弄されながら生きているが、また種を撒いて、忘れた頃にボタモチが落ちてくるのを待っていよう。