3/1 - 3/31 のトップセラー

先月の上位10作品をご紹介します。新入荷組は、シャムキャッツの、賢いユリシーズ、「日和ってたまるか!」、そしてデラシネとMikki & the Mausesスプリット。

京都移転後、すっかりウタモノ色が強くなったサンレインですが、毎日まいにち色んな音源を聴いていると、ますますジャンルや傾向で音楽を好む習慣がなくなって、面白い音楽の美味しい部分ををかぎわける嗅覚みたいなものが鍛えられます。
実際の店舗空間がないので、ぱっと皆さんの目に飛び込んでくるようなディスプレイなどできないのがもどかしいのですが、レビューの他にもツイッターやこのブログなどで頑張って紹介していきますので、どうぞ皆さんも好奇心をもってあれこれ聴いていただきたいです。

あたらしい月刊サンレインが遅れています。特集をお願いしていた方のパソコンやCD棚が地震の影響でめちゃくちゃになってしまったそうで、もう少しかかるといいながらずいぶん経ってしまっていますが、本当に間もなく!お楽しみに。


1.シャムキャッツ / 渚
http://www.sunrain-records.com/catalog-3185.html
シャムキャッツ、新境地を切り開くキラーチューン「渚」をシングルカット!!

再生ボタンを押すと流れ出すギターのクリーントーン、これだけでもう充分に胸が高鳴ります。やがて部屋中を満たすのは、Beach Boys~スピッツ~Vampire Weekendまでを咀嚼し、「シャムキャッツ」のやり方で吐き出したキラキラのサンシャイン・ポップス。これまでの彼らの特色だったストレンジなねじれや脱力感は影を薄め、やさしさと(ほんのすこしの)力強さが表に出ていて、新鮮かつ頼もしさを覚えます。カップリングの「忘れていたのさ」も、ライブを重ねるたびにアレンジが変えてきた、彼らの実直さを感じさせてくれる、素敵なヴァージョン。500円のお手頃価格ですので、お早目にお求めください!!


2.シグナレス / NO SIGNAL
http://www.sunrain-records.com/catalog-3147.html
あらかじめ決められた恋人たちへ×ゆーきゃん⇒シグナレスのファーストアルバム

あら恋であって、あら恋ではない。ゆーきゃんであって、ゆーきゃんではない。足し算でも掛け算でもない、ただお互いに好きなことやれば、化学反応が起きるんじゃないかという楽観的な予想で始めたユニットの、6年目のデビュー作です。自分たちにとっても、懐かしいような新しいような、そんな音だと思います。ぜひ聴いてみてください。


3.王舟 / Thailand
http://www.sunrain-records.com/catalog-2947.html
王舟、鳥獣虫魚より2枚目のCDR!!これは凄い!

冒頭のノイズ混じりのイントロから、何事かが起こるに違いないという予感を抱きながら聴き始めると、その先にはKIP HANRAHAN、Jim O'Rourke、青柳拓次といった音楽家たちにも連なる、アメリカーナ的な、乾いた祝祭の空気が広がっている。mmmのフルート、フジワラサトシのギター、oono yuukiのトランペットなど、ホームグラウンドである八丁堀・七針で出会った音楽仲間たちが"王舟"というメロディを増幅させ、インスト曲においても、もちろんボーカル曲においても、瑞々しさと大きなスケールを同時にあたえながら「うた」を鳴り響かせています。これはひとりのSSWの作品であると共に、素晴らしい人選で完璧なまでに編み上げられたプロジェクト・ワークであるとも言えるでしょう。


4.WATER WATER CAMEL / 分室
http://www.sunrain-records.com/catalog-3132.html
WATER WATER CAMELの限定流通盤が入荷!

これを「良くない」ということはどう考えても困難なように思えます。山梨に居を移し、生活と音楽を結ぶ小さな試みを重ねる共同体による2010年冬のレポート。うたいだすとそこに静けさが積もってゆくような声、そしてキャンパスに下地を塗り、歌に影を添えるかのようにそっと置かれたギターの表現力、飾り気なく添えられるベースの滋味、ゲストメンバーの人選も申し分なく、どこを切っても静かな感動が溢れだしてきます。デジパックトレイの底に記されたメンバーからのメッセージも素晴らしく(あえてここでは書きません)、ぜひ手に取ってほしい一枚です!!


5.撃鉄 / Gekitetsu 1
http://www.sunrain-records.com/catalog-2950.html
ライブ会場での衝撃をお部屋でもぜひ!!超新星・撃鉄のCD-Rが入荷!!

カキンカキンのノーウェーヴ・サウンドの上を、人間力を過剰に積載したボーカルが飛んでゆく。FUJI ROCK 2009、ROOKIE A GO GOのステージで、昇ってはいけないところ(アトラクション)までよじ登ろうとし、スタッフからめちゃくちゃ怒られた、というエピソードも「あー、なるほど」と思わせてくれる、どこを切ってもエナジーの高さが溢れだしてくる曲・演奏です。東京では精力的・爆発的な数のライブをこなしているものの、地方遠征はまだそれほどの経験がない彼等。現在開催中の全国ツアー、このCD-Rで予習して、ぜひ会場へ!!


6.賢いユリシーズ / ()に収まる言葉を知る前に腰を下ろすな
http://www.sunrain-records.com/catalog-3180.html
愛媛出身、京都在住のクリエイター、osanai osamuによる「うた」プロジェクト「賢いユリシーズ」の自主制作CD-R!!

デモやライブを積み上げた、まるでアウトテイク集のような手触り(一個一個手作りされるジャケがその雰囲気をさらに掻き立てています)のCD-R。
不定形のメンバーによって半ば即興的に「うた」を紡いでゆく点ではMaher shalal hash bazにも近く、ユニゾンされる牧歌的なメロディはT.V.not Januaryとも似ているのですが、このプロジェクトの一番特徴的な点は、osanai君の朴訥とした歌がもつ不思議なねじれと揺らぎです。ピュアなナイーブネスの率直な吐露と、安っぽい自己顕示や常套句的な「感じた振り」を嫌う清冽さが同居していて、胸が痛むようなほほえましいような、なんとも言えない気持ちになります。穂高亜希子さん、oono yuukiくんといった歌が好きな人にはぜひ聴いて欲しいと思います。23曲入り。


7.福原希己江 / のろのらのらねこ
http://www.sunrain-records.com/catalog-2885.html
東京・八丁堀のアート/ミュージックスペース「七針」が主宰するレ―ベル「鳥獣虫魚」より、シンガーソングライター福原希己江のCD-R!!

2010年春、七針でのライブを林谷英昭(マリア・ハト)と王舟が録音、さらにマスタリングを王舟がほどこし、完成されたというこの作品、とにかく名演!シンプルなギター弾き語りが実にすがすがしく、まぶしく、自然と涙がこぼれそうになります。この清冽さは金延幸子さんや浜田真理子さんの歌にも通じるはず(この音源はもうちょっと親密で、ひっそりとした感じがしますが、それがまたよい!)。七針に行けばこの人の歌をライブで聴けるのだ…と思うと、すこし東京のひとが羨ましいです(笑)。


8.folk enoough / DISCO TAPE
http://www.sunrain-records.com/catalog-3171.html
福岡が、日本が誇るオルタナティブ!!! ジャンク・ブルース・ロック・バンド、folk enoughのニュー・アルバムが完成。

いつだったか忘れてしまったが、井上君は「だいたいあらゆる類の音楽は聴いたように思う」という話をしてくれたことがある。ビッグマウスで鳴らした井上君だけど、いま思い返すにそれは、べつに大げさなことじゃなかった。この「DISCO TAPE」を聴けば分かる。どんな音楽にも必要な呼吸、あらゆる音が響かせる空気の存在、様式とそれを崩すことによって現れる本当のスタイル…たくさんのミュージシャンが見落としがちな「何か」を、folk enoughは10年かかって一つ一つ丁寧に拾い上げ、磨いていった。それらはあらゆる類の「よい」音楽に共通する「根拠」だったのだ。つまり、あのとき井上君は「俺はそれを見切ったよ」と言っていたということになる。
ぼくも、わりとたくさんの音楽を聴いてきたはずなのだけど、一向にfolk enoughを見切るに至らない。ただ彼らが無造作に生み落とすスリリングでロマンチックな音塊に翻弄され、圧倒され、狂喜するだけの年月はまだまだ続きそうだ。


9.OUTATBERO / CUPRUNOID
http://www.sunrain-records.com/catalog-2983.html
NEW LOW→TORICO→FLUIDと、京都の"鮮烈な音"の一翼を担い続ける男・BINGOが率いるOUTATBEROの初公式音源!!

日本人離れしたセンス」という言葉についてとやかく言うのはやめます。このOUTATBEROも、レディオヘッドビョークを引き合いに出して評されることが多いと思いますが、聴けば聴くほど感じるのは、それらとも「違う」という感覚。何か、どこかが、何にも似てないのです。とても構造的な音楽のようで、隅々まで血の通っているような、ロック的なカタルシスを排して作られたようでいて、最後はぶち上がることを目指しているような、ひねくれているのか素直なのかさえ分からない、4人のバンドマンが作り上げたライブハウス仕様の現代音楽。ぜひ寄せられたコメント(上記リンクから飛べます)を読んで、試聴してみてください。


10.V.A. / 日和ってたまるか!
http://www.sunrain-records.com/catalog-3181.html
京都在住の若き音楽家・osanai osamuがコンパイルした、いま知られるべき「うた」のオムニバス。

賢いユリシーズ・seiya hoshino・heron・kaccono・宙空一派・久保田健司&コトリパンの6アーティストが参加。恥かしながら僕もほとんど存じ上げない方ばかりですが、どれも素晴らしい歌です。雑然とした録音状態が却って「見つけ出された」感じを正しく伝えてくれます。


次点. deracine×Mikki & the Mauses / Split CD
http://www.sunrain-records.com/catalog-3184.html
レスザンTVプレゼンツ、太平洋のあっちがわとこっち側の問題児によるカッコよすぎるスプリット!!

フクオカ~トーキョー⇒セカイ行きのストレンジ・ハードコア・トリオ「デラシネ」と、"ウォルト・ディズニー meets GERMS"という半ば意味不明の音楽性と武器に、無法地帯のスラム街でハウスパーティを毎夜繰り返し、LAアンダーグラウンドで話題沸騰中という「Mikki & the Mauses」によるスプリット!やる気の無さと、投げやりな見てくれと、創作/表現への衝動が奇跡的なバランスで成立している両バンド。どちらも、ぐしゃぐしゃに潰され毒気に満ちた"ポップチューン"をこれでもかというほどに叩きつけてくるので、はじめは本当に20曲入っているのか気づかないくらいです。
音楽は国境を超える、という陳腐な言い方にはヘキエキしますが、言語の違いを越えて、こんなにも共振するマインドがあるのだということにあらためてびっくりさせられる一枚。デラシネチームによるアートワークも否応なしに目を捕えます。ハードコア好きならずともぜひ聴いておきたい作品だと言ってよいでしょう!