チャート更新 2012年2月

 新譜のチャートインが多かったように思いますが、なかでもmmm『ほーひ』、kyooo『鳥が歌う』、ノラオンナ『いいわけイレブン』(厳密には新譜ではなく、新入荷です)と、女性SSWものが3タイトル。フィメール・ヴォーカルの力はここ数年ひしひしと感じているわけですが、昨年後半くらいからは、徐々に、そしてだんだん顕著にSSWが盛り上がってきている気配がしています。しかしみんないい歌うたうなあ。

 一方でRIOW ARAI『Graphic Graffiti』『永田一直の世界 DJ MIXシリーズ Vol.13 〜和ラダイスガラージ篇〜』と、ダンスミュージック/ミックス作品が2枚チャートインするのは久しぶりな気がします。リョウ・アライさんの特典和モノMIXも素晴らしく、これ目当てに買っても間違いない!と断言。どちらも曲はもちろん、「音」がいいんですよね。いい「音」は、それだけでもう「価値」だと思います。

 ほかにはcamera-stylo(カメラ=万年筆)の『COUP D'ETAT』、これは「すごい!」と思った瞬間、すぐに初回入荷分が売り切れてしまいました。もっとたくさん仕入れておけばよかったな…というわけで再入荷待ちです。お待ちくださいね。


 余談になりますが、先月は個人的に引っ越しをしたり、社長と今後のサンレインの運営について話したり、陰ながらですが、いろんなことがありました。もっとできることがあると気づいて、そこに至る道筋をすこしづつ整備してゆこうと、あらためて思ったひと月。2012年、あらためてがんばります。どうぞよろしくおねがいします。


1.mmm / ほーひ
http://www.sunrain-records.com/catalog-3578.html
前作『パヌー』に引き続き、下田温泉(ドラム)、千葉広樹(ベース)、宇波拓(エンジニア、ギター他)を基本メンバーにして、POPOから江崎將史さんと喜多村朋太さん、とんちレコードからはMC. sirafu & 伴瀬朝彦のお二人、そして青木タイセイさんに鳥獣虫魚の柱谷さんと、気のおけない仲間たちに囲まれて作ったセカンドアルバム。フレンドリーで、茶目っ気がいっぱいな空気がそのままパッケージされています。猫が日向ぼっこしているような、といいますか、あたたかくてやわらかい声の魅力もますます活かされており、ときおり差し挟まれるシリアスな表情にハッとしたり、やんちゃな楽曲がフックになったりしながら、最後まで一気に聴ける一枚。
サンレインとJETSET限定の特典は、シラオカの「微熱」(ゆーきゃんと共同でのカヴァー)+ホライズン山下宅配便「雨の日」の2曲入りCDR。


2.土井玄臣 / それでも春を待っている
http://www.sunrain-records.com/catalog-3522.html
大阪在住のSSWによる新作が、これレコードからリリース。アコースティックギター、ピアノ、そして柔らかな電子音たちによる白昼夢にも似た皮膜につつまれたサウンド。紡がれる歌詞の淡い情感をそのまま声に変える、リリカルな歌。この7曲入りのCDRのささやかなたたずまいに隠された闇と光の奥行きは、何度も聴き返しても計り知れないものがあります。
同じこれレコードの洞やbavaroisはもちろん、麓健一、oono yuukiら東京のSSWたちとも呼応する感受性。こういう作品と出会えるのが嬉しいです。
一度売り切れてしまうと(土井さんご本人の手作りのため)なかなか再入荷しない難易度もかえってまたを魅力増しているかな!?


3.kyooo / 鳥が歌う
http://www.sunrain-records.com/catalog-3579.html
鳥獣虫魚からの2012年初作。kyoooのファーストアルバムが入荷。同じく鳥獣虫魚のSSW・フジワラサトシのアンサンブルにバイオリンとサックスで参加したり、即興と室内楽をテーマにした王舟の実験的なアンサンブルにサックスで参加したりもしているkyoooさんによる初の流通盤。全編を通じて落ち着いたトーンですが、ときに儚く、ときに無邪気に響く歌声が、サッドな感触だったりリラクシンな雰囲気だったり、曲にあわせてに少しずつ色合いを変えてゆくさまが非常に魅力的です。
エンジニアは、たゆたうの『糸波』も手掛けた大城真氏。この小さいけれど豊かな声、こんなふうに表情やニュアンスをそのまま「音源」に閉じ込めるのは、非常に難しかったのではないかと思います。虹釜太郎さんが「大城真さんはテン年代以降もっとも重要なアーティストになる」と予言した人の耳にはやはり脱帽せざるを得ません。
また制作にはフジワラサトシが全面協力、NOb(ケイドロック)oono yuuki、ナガヤマタカオや宮本善太郎といった若き音楽家たちのサポートも、ツボを得て(あるいは絶妙な外しで)楽曲をより豊かに彩っています。
夜の深い時間、あるいは明け方、耳を澄まして聴けば聴くほどにその魅力が増してくるに違いない、小さな名盤だと思います!


4.ゆーきゃん / ロータリー・ソングズ
http://www.sunrain-records.com/catalog-3453.html
ゆーきゃん、4年ぶりの流通盤、ソロアルバムとしては実に7年ぶりのリリース。高橋健太郎さんの家が取り壊しになる数日前に録音され、ひっそりと眠っていた音源に、田代貴之(bass)、エマーソン北村(key)、見汐麻衣(cho)、そして高橋さんご本人(guitar,etc...)と、ゲストプレイヤーの見事な力添えを得て出来上がった5曲に、ホーム・京都UrBANGUILDでのライブを収録した全6曲入り。アートワークは京都在住の画家・足田メロウ氏。かねてから親交のあるトラックメーカー・FRAGMENT主宰の術ノ穴よりりリースです。


5.camera-stylo(カメラ=万年筆) / COUP D'ETAT
http://www.sunrain-records.com/catalog-3601.html
再生ボタンを押すと同時に始まるパレードのような27分全9曲。職人級でインテリジェントなソングライティング・センス、そしてキラッキラのサウンドメイクが全編のスミからスミまで光りまくっています。大半の曲でゲスト・ヴォーカルを起用するところといい、全編を貫くヨーロッパ~室内楽~映画音楽のような雰囲気といい、ピチカートファイヴを思い出させるなあ…と思っていたら、ゲストヴォーカルには野宮真貴さん。そしてこのユニット名って!ということでもう一人のゲストには鈴木慶一さん。ジャケットの赤、「ホーリーローリーマウンテン」といった曲名はあの名作ゲーム『MOTHER』(音楽:鈴木慶一)へのオマージュでしょうか?こういうひねったエスプリもまた小憎らしいです!
西村ツチカ、payjama、中野友絵、ツツミタニ、佐久間裕太(昆虫キッズ)、babi、吉川英理子(ジョンのサン)といったマンガ家やイラストレーター、ミュージシャンが描き下ろしを提供した8曲分のイラスト・ポストカードもうれしい。
過剰なまでに情報が詰まった、それでいてあっけないほどにスマートでスムースなマジカル・ポップス。これは本当に驚きのデビューアルバムです!!


6.RIOW ARAI / Graphic Graffiti
http://www.sunrain-records.com/catalog-3586.html
RIOW ARAI、キャリア17年目にしての10作目。タイトルは「グラフィカルなサウンドレイアウト」と「グラフィティ=いたずら書き的な自由度」の二つを指し示すそうです。たしかに、サンプリングとループを構造的に組み合わせたスクエアな気持ちよさを保ちながら、音響的な耳への刺激をまるで驚かすように(でも決して痛くはないのです)交えてこられるので、ビートに合わせて体が踊り出すだけではなく精神ごとぐっと引きこまれる感があります。全編ダブミックスレコーディングを行ったというスリリングな作りも納得。それにしても、このアイディアの豊かさとビートの鮮やかさ、あらためて「マエストロ」とはこの人のためにある呼称なのではと思いました!
特典はなんとサンレイン特別仕様。「ゆとり世代のためのニューウェーヴ入門編」スペシャル・和モノMIX CDRです!!


7.永田一直 / 永田一直の世界 DJ MIXシリーズ Vol.13 〜和ラダイスガラージ篇〜
http://www.sunrain-records.com/catalog-3569.html
永田一直の大傑作シリーズ、2012年のリリースは人気国産ダンスミュージックパーティー「和ラダイスガラージ」から生まれた、最新ミックスシリーズ第13弾。このシリーズのレビューは、すべて永田さんが直々に書いてくださっているものです。謎かけのようなテキストですが、まさにその通り、あえてトラックリスト代わりのヒントを暗喩的にちりばめたm昭和歌謡の歌詞みたいな仕様になっています。もうお持ちの方は、あらためて読みながら聴いてみてください。まだの方は、このテキストだけで何の曲が入っているか分かったら、すごい!!

「夢のような恋なんてお互いもうできない。歳を重ね、大人になっていた二人。回想が始まる。「優しい言葉で借りを増やさないで」と言い残しホテルの部屋を出る男。夜の高速道路から見える都会の灯り。高速から青山通りへ。心と別の私生活とは?ズベ公からアンニュイへ。時代も変われば女も変わる。時刻は25時。深い夜への入り口。都会のはずが、中近東辺りの紫色の地平線が脳裏に浮かんだ。大都会の朝。国民的大物俳優が歌う、この上ない現代的で都会的な和製ソフトロック。ビルに反射する朝日が眩しい。バブル前夜の東京原宿。化粧品のCMソングですら先鋭的。早過ぎたクラブシーン。一方、同じ化粧品のCMソングでも、70年代はギラギラしていて当たり前。新旧ドメスティック化粧品ディスコ繋ぎ!海外旅行がまだ高かった時代。なんのあても無く空港で行き先を決める不倫カップル。南緯17°タヒチの太陽と波と風にはしゃぐ、ズベ公上がり。80年代の華やかな一コマ。だが、若かった二人には茅ヶ崎の海がお似合いだ。車の中で朝になったら風邪をひいてた事を思い出した。夏でも服は着てしたほうがいい。フェードインするフェイザーまみれのコーラスに誘われ、湘南から未来宇宙空間へ。ディスコサウンドに乗って展開される、清く正しい男女二人組によるコーラスワーク、正義の音とも言える清々しいアナログシンセのソロ。カットインされる超実力派ドラマーのフィルインから始まる、和製エレクトロ絵巻!原宿歩行者天国からニューヨークへ。リズムトラックをデジタルドラムに差し替えただけの当時物のセルフリミックスバージョンに若い血がたぎる。自分の親は60〜70年代に新宿で飲み屋をやっていたんです。その時の常連さんで大部屋俳優の方がいて、赤ん坊の頃の自分をあやしてくれてたそうです。その方が晩年に出されていたレコードが檄エレクトロ!!ダンス!コント!ダンス!コント!口が長いゴムで打撃を受けるユートピア!ノンストップミックスのはずがストップ!?直後、畳み掛けるビート歌謡で、完全に夜のヒットスタジオ状態!!華やかなステージから一転、都会(まち)を離脱した人々へのレクイエムが流れる。この歌の舞台は70年代だが、2011年以降こんなに染み入る歌になるとは。夕方の路地裏、ボロボロになった服を着て顔を腫らした不良少年とすれ違った。「青春なんて言葉には、不様だけがよく似合う」夕日が暮れ、都会にまた夜が来る。」


8.ノラオンナ / いいわけイレブン
http://www.sunrain-records.com/catalog-3593.html
孤高の女流ウクレレ弾きによるネイキッド・ソングス11編。ウクレレ一本での弾き語り。ボサノヴァやジャズのような響きとコード感を漂わせながら(ナラ・レオンニーナ・シモンを彷彿とさせる瞬間もあり)、中川五郎友部正人といった武蔵野フォークの系譜も顔をのぞかせます。
声とウクレレだけのミニマルなアレンジ、録音空間の鳴りだけを漉し取ったストイックな録音でありながら、ここには聴く者を拒むような厳しさはありません。それどころか、まるで上質のシティ・ポップスのように聴こえてくるのは、彼女の持つ人柄ゆえか、ハスキーで中性的な声の魅力か、有り体かつたくみな詞と楽曲の力か。録音・ミックス・マスタリングは田辺玄(WATER WATER CAMEL)。枚数限定につき、おそらく入荷は一回きりです。お早めにどうぞ。


9.埋火(うずみび) / 恋に関するいくつかのフィルム
http://www.sunrain-records.com/catalog-15.html
埋火、福岡在住時のファーストミニアルバム。
これは優れた歌ものですよ、見汐麻衣の透き通った声にのって伝わってくるのは何の変哲も無い些細な日常の心象風景。何万という日本のバンドが様々な恋の歌を書くが福岡のこのバンドは「I Love You」という常套句を使わずに普遍的なラブソングを書ききっている。サードあたりのベルベットアンダーグラウンドを思い出させる、透明感のあるサウンドを収録したのは同郷のロレッタセコハン出利葉氏(リリースもロレッタのレーベルから)。90年代の福岡オルタナ勢の勃興以前にはこういった曲を演るバンドが多数いたのもかの地、福岡の事実。彼女たちはそんな正統派の流れをくむ最新型。(吉田肇)


10.WATER WATER CAMEL / 分室
http://www.sunrain-records.com/catalog-3132.html
WATER WATER CAMELの限定流通盤。これを「良くない」ということはどう考えても困難なように思えます。山梨に居を移し、生活と音楽を結ぶ小さな試みを重ねる共同体による2010年冬のレポート。うたいだすとそこに静けさが積もってゆくような声、そしてキャンパスに下地を塗り、歌に影を添えるかのようにそっと置かれたギターの表現力、飾り気なく添えられるベースの滋味、ゲストメンバーの人選も申し分なく、どこを切っても静かな感動が溢れだしてきます。デジパックトレイの底に記されたメンバーからのメッセージも素晴らしく(あえてここでは書きません)、ぜひ手に取ってほしい一枚です!!