3月号のお話。

 2月号の解説を3月に入ってやっとこさ書きあげる(しかも2月号のタイトル表記を間違えていたのを1か月も放置していた)、こんなことをやっていちゃいけない、と思い、出来上がったばかりの3月号の解説を勢いで書きました。


 今月のサブタイトルは「日常」です。あれから1年後の3月、日本各地で流れている音楽の「日常」。とはいえただの独断にもとづくチョイスで、厳密には2010年以前に収録された作品もあり、いままでのチョイスと具体的には何が違っているのか、説明もできないのですが…あえて言うならば、「暮らしてゆく」ということの一側面を描いたり、吐き出したり、図らずも音に現れている楽曲をコンパイルした、ということでしょうか。

 まあ、「管理人が出会ったおすすめ音源を紹介してゆく」特典サンプラーですので、これ以上ゴタクをならべてもボロが出るだけです。さっさと解説に移りましょう。


収録曲解説!!
1.24ページ / 取りあえずな今に / 『24ページ』収録

京都で結成された「24ページ」。前作までは男女ツインボーカルの、YO LA TENGOをさらにゆるふわにした印象のバンドだったのですが、その後二人になり、ぐっとソリッドさが増しました。収録曲はそんなアルバムのなかでも白眉の一曲。社会人ふたりが現実とストラグルしなくてはならないブルースと、それでも生活の隙間をぬって音楽をつづける意思がエヴァーグリーンなサウンドのなかからじわっと溢れだしてきて、やたらと泣けます。


2. Ryo Hamamoto & The Wetland / Sally Lee / 『Ryo Hamamoto & The Wetland』収録

mooolsのギタリストでもあり、そのギターの腕前は先日ジャパンツアーに帯同したOWENをして「うらやましい!」と言わしめたハマモト君。バンド名義での初アルバムは変則チューニングのアシッドフォーク〜ジェフ・バックリイのように崇高で美しい曲まで、実にバラエティに富んだものになっています。収録曲は70年代・西海岸のSSWの翻訳のようなストーリテリングがとても小気味良いフォークソング


3. HOMM∃/ いいこだよ / 『NO IMAGE』収録

いま、いちばん「ライオット・ガールズ」という呼称を体現するのはこの3人ではないかと思います。媚びず、てらわず、セックスアピールをしない。怒りやフラストレーションを強烈な表現に練り上げて疾走させる彼女たちのサードアルバムからの収録曲は、ニッポンのニューウェイウ黎明期への補助線も引けそうなどこか懐かしいメロディが、パンキッシュで重心の低いサウンドと相まって恐ろしくも超絶にポップです。


4. Mad Bridge /理想の今日/ 『Bivouac』 収録

岩手在住のクルーによるアルバムより「震災前に作っていた曲で、7インチをきっていて 3月にリリースを予定していた」という曲を収録。地震があって物流
が止まりリリースを一旦延期したものの、やはり『被災地から発信しよう』との思いが募り、シングルカットに踏み切ったのだとか。粋なトラックと、MCたちの朴訥とした味わい深いライミングが、ポジティヴなメッセージをお題目でなく聞かせてくれます。「シンプルな理由 好き嫌いが基準 あいも変わらずお子様でちゅ」なんてラインが個人的に特に気に入っています!


5.DJ MOTIVE / Birdy / 『Trip Do Sunday - mohawks compilation no.1』収録

岐阜在住のDJ/PRODUCER、MOTIVEさんが主催するレーベルmohawksよりリリースされたレーベルコンピから。日曜の昼に聴くのにぴったりな、リラクシンな楽曲たちが多彩なジャンルにわたって収録されています。オシャレなのに肩肘張らず、そっとそこに置いておける音楽たち。このレーベルは信頼できる!収録は主宰MOTIVE氏による一曲、流麗で軽快なピアノが4つ打ちとループを下敷きにしたトラックときれいなコントラストを作っていて、これは日曜の午後でも、とくに夕暮れに近い頃のBGMですね。


6. 惑星のかぞえかた/ 嵐が丘/ 『惑星のかぞえかた EP』収録

都内を中心に活動する男女デュオによる初の自主音源から。ゑでぃまぁこんやmuffinに通じるアシッドフォーク感もありつつ、霧がかったサイケデリアというよりは、端正で風通しのよい、それでいてひとの気配が薄い、不思議な魅力を放っています。郊外の平日、誰もいない公園なんかを思い出すのは、ぼくだけでしょうか?収録曲「嵐が丘」のほか「午前中の時間割」「少年少女」といったリリカルなタイトルも素敵だと思います。


7.iss LAICHELS / on fire / 『1st rhythm session』 収録

福岡のスリーピースfolk enough井上さんを中心に結成されたトリオの初デモから一曲。この人の美学なのか、ライブはあえてかっちりさせず、ラフでフリーキーな雰囲気で時にはひとをケムにまくこともあるのですが、音源はエディットやループ、ダビングなどを駆使して存分にそのセンスを炸裂させてくれています。「30分くらいのセッションが、エディットで3分の曲になった」ということもざらにあったのだとか。音を「遊び」ながら組み上げてゆく、ロウファイなスタイリッシュさ、たまりません。


8.micemohee / smile /『2003-2008』収録*近日入荷!!

同じく福岡在住のSSW、178が在籍するバンド、micemohee(マイスモーヒー)。タイトル通り03年から08年までに録音された音源をコンパイルしたCD-Rから一曲。ボガンボスなどを彷彿とさせるロックンロールも、すこし歌謡テイストのガレージもあり、アノラックやギターポップの影響を見せる日本語インディ・ロックもあり、6年の歳月のうちにバンドが刻んできた様々な音楽が楽しめます。収録はスカスカな脱力感と無邪気なポップセンスが同居する名曲。


9. 古宮夏希&コークスが燃えている! / 旅への思い/ 『古宮夏希&コークスが燃えている!3』収録

「2」「3」を同時発売した東京のスリーピースバンドの、「3」のほうから一曲を。満天のロマンティシズムのなかに、ちくりと胸を刺す喪失感。この晴れ渡った青さが2作品中、色々な表情を見せながら全編を覆っていて、聴き終えたのちには嫌が応にも「青春って、こういうことだったよなあ」と振り返らずにはいられません。「全少年少女待望の」というキャッチフレーズは、とりもなおさず「かつて少年少女だったすべてのひと」に向けて奏でられているということなのでしょう。


10. ゆーきゃん /空に沈む / 『ロータリー・ソングズ』収録

清濁併せた色々な「日常」は、サンレインに入荷した作品の数だけあるにひとしくて、到底精査しきることができませんでした。まだまだ収録したいものがたくさんあって、あれもこれもとキリがないので、最後は自分なりの「ある日の空」を歌ったこの曲をピリオドがわりに。キーボードはエマーソン北村さん、レコーディングに使われた高橋健太郎さんの家は、その後取り壊されてもうありません。



映像はMAD BRIDGE「理想の今日」(勝手に上の橋VER.)。
オフィシャルPVとはバージョン違い、盛岡市内各所でのロケ映像が使われています。